登入ギルドの大扉が開けば、酒臭い冒険者が二日酔いで転がり込み、その横で新米が「今日こそは!」と張り切って受け付けに並んでる。
受付嬢のカエデは笑顔でさばいてるが、目だけは笑ってない。
あれが本当の営業スマイルってやつだ。奥の掲示板にはクエスト用紙がぎっしり貼られていて、どれも「ゴブリン討伐」「魔物の巣駆除」「護衛依頼」……。
毎度のことだ。そんな喧騒を背に、俺は机で報告書をまとめている。
二十歳そこそこの若造が書き物してりゃ浮くのは当然だが、俺は調査員。
依頼の成否を判断するのが仕事だ。……まぁ、俺自身、周りと同じノリをやる気もないけどな。
「あの、アルディン先輩……この依頼、危険度三でいいんですかね?」
隣の机に腰掛けたのは、入ったばかりの新米調査員。
緊張で声が裏返ってる。 俺はちらりと用紙をのぞいて、首を横に振った。「魔物の出没地点が街道沿いになってるだろ。通行人を襲うリスクを考えれば、最低でも五だ。金額も上乗せ」
「あ、そ、そうなんですか……!」こいつら新米は、危険度を魔物の強さだけで決めようとする。
本当は地形や人の往来、季節の影響だって無視できない。 石橋を叩いて壊すくらいで、ちょうどいいんだよ。「さすがっすね、アルディン先輩。やっぱり元冒険者だから、現場慣れしてるんですね」
……おい、その噂どこから漏れてんだ。
冒険者時代の話は、正直あまり触れられたくない。
冒険者は怪我で引退した──そういうことになっている。本当の理由?
それは……まぁ、胸の奥に仕舞っておくさ。 いちいち説明するのも面倒だし、知ったところで誰も得しないしな。書類仕事を終えてギルドを出れば、そこはいつものペテルの街並みだ。
石畳の大通りには、屋台の匂いと人の声が入り乱れている。
通りの角では、赤毛のテッタが店先で大声を張り上げていた。
テッタは「今日もおまけつけとくよー!」なんて笑顔を振りまきながら、冒険者相手に鍋いっぱいのシチューを売りつけている。
元気なのは結構だが、あれは半分押し売りだろう。
向かいの酒場に視線を向ければ、準備中の看板を設置しているジョナスが見える。
胸元に蝶ネクタイなんか締めて、今日もダンディにしているが──あの人、酒に弱い。
客のグラスを眺める顔が、いつもちょっと辛そうなのは内緒だ。道端では洗濯物に風魔法をかけて乾かす主婦、子どもが光魔法で小さな明かり玉を飛ばして遊ぶ姿も目に入る。
魔法は戦いのためじゃなく、こうやって生活に溶け込んでいる。
……まぁ、その魔法をどう使うかで、人の生き死にが分かれるのも事実だけどな。
そうそう、調査員の仕事なんて、大抵は退屈なもんだ。
「近郊で魔物の目撃情報が増えているから、確認してこい」──今日の依頼もその程度。森の外れを歩き回って、足跡と糞を調べて、「はい群れが増えてますね」で終わり。
……そう思ってたんだがな。
森の奥に入るにつれて、空気が妙に重くなった。
鼻にまとわりつくような、濃い魔素の匂い。 普通の魔物の群れじゃこうはならない。さらに進むと、地面に黒焦げになった金属片が転がっていた。
拾い上げてみると、魔道具の残骸。 誰かが使い捨てたにしては、術式がぐちゃぐちゃに焼き切れている。……暴走、か?
誰がどう使ったのかは知らないが、少なくとも自然に壊れたもんじゃない。
俺? もちろん持ち帰るさ。
調査員ってのはそういう泥臭い仕事がメインだ。 戦うより、拾う。……いや、悲しいけどマジで。
似たようなの、先日もあったよな……。
「ったく、面倒ごとの匂いしかしねぇぞ」
ペテルに戻ると、街は夕飯時でちょうど賑わっていた。
通りを進めば、道具屋のタマ婆さんが新米冒険者を叱り飛ばしていた。
「その薬草はただの雑草だよ! 目ぇ節穴かい!」
あれでも世話焼きで、失敗したやつにはきっちり本物を握らせている。
魔道具屋のゼットの店先では、照明石がほのかに光っている。
小型の魔石を組み込んだ照明具。
街灯代わりにあちこちで使われているが、火と違って煙も出ないし、洞窟でも安全だ。その代わり、魔石代がバカにならないから庶民には縁遠い。
おっと、道草してる場合じゃない。
ギルドの扉を開けると、例の喧騒が耳に飛び込んでくる。
冒険者は元気だねぇ。 こっちは胃が痛くなってんのに。「戻りました」
受付前で新人が揉めてる声を横目に、俺は机に報告書を置く。
机の奥に座っているのは、丸眼鏡かけて報告書を読んでいるマルセル課長。
見た目はただの温厚なおっさんだが、ああ見えて、俺の報告はちゃんと読んでくれる。
ありがたい上司ってのは、どこの世界でもレアものだ。「魔素が濃い、魔道具の残骸……なるほどな」
「ええ。たぶん誰かがヘマをしたか、わざと隠したか。そのどっちかでしょうね」課長が真剣に顎を撫でてる横で、隣の席から軽口が飛んでくる。
「ははっ、アル、それってただの壊れかけの道具じゃねぇの? 大げさだなぁ」
ナック。
俺の同僚にして、陽気さで人の神経を逆なでする天才。いや、悪い奴じゃないんだが……こいつの楽天家っぷりに、何度胃薬を増やされたことか。
「……石橋は叩いて壊して、自分で作るもんだろ」
俺がぼそっと返すと、ナックは「は?」って顔。
課長は逆に小さく笑って頷いた。……ああ、やっぱりこの人、わかってる。
だけどまぁ、あんな焼き切れた魔道具なんて。
……ったく、さっき「面倒ごとの匂いしかしねぇ」って言ったばかりだろ、俺。
本当に勘弁してほしい。
俺の脳裏に、あの魔女の言葉が甦る。 ――どんな世界にも裏はある。 ほんと、その通りだよ、母ちゃん。背負い袋をあさって、飯を取り出す。 テッタの唐揚げは土産だから……これしかないか。 黒パンを片手に、辺りを見渡す。 この辺も変わってねぇなあ。 見渡す限り、森、森、森……まぁ、全部、緑色だ。 とはいえ、木は木でも、実はみんな結構違うもんだ。 それを目印に進んでるんだけどな。 方向感でいえば、実家の場所はすぐわかる。 なんでかって? 魔力感知をして、こんなに離れていてもわかるほど、馬鹿デカイ魔力がある方向に向かえば――だいたい家に辿り着く。 な、簡単だろ。 さてと、ミミズちゃんは居なくなったようだ。 遠くで地竜の鳴き声が聞こえたが、こっちには来ないだろう。 あいつらは知性がある。 わかっているから、魔女の縄張りには入って来ない。 ……身の程をわきまえてるんだよな。 魔鳥の鳴き声も、もう聞こえない。 ……このまま行くか。 辺りはすっかり日も落ち、夜の森が近づいてくる。 夜は魔物も活発になり、危険だ。 この辺りまで来ると、もう魔物界の強者がゴロゴロしてる危険地帯。 上級冒険者のパーティーを、即座に壊滅に追い込むような魔物だらけだ。 伝承に登場するような魔狼の遠吠えが響く。 異様にデカイ影が横切り、見上げれば大きな飛竜が夜空を舞っていた。 視線を戻し辺りを見渡せば、一見、幻想的にも見える美しい光――だがその正体は幻魔の類だ。 ……伝説のオンパレードだな。 例外はあるが、知性のある魔物ほど俺に襲いかかって来ない。 なんでだろうな。 魔女の知り合いだからなのか……それは不明だ。 だが、何か報復を恐れているような、そんな感じがする。 知性があると言えばドラゴンだが……あいつらは魔物なのか、別の生物なのかは、いま
報告を終えると、俺は自由の身になった。 自由最高っ!! これでやっと、ゆっくり寝れるぜ。 でもおかしいよな。 ゆっくり寝るために、仕事してるんじゃねぇっての。 そんなことを心の奥でぼやきつつ、テッタの食堂へ足を向ける。 もう昼飯食って、寝るに限る。 そんでもって翌日。 俺は晴れて休日を手に入れた。 なんと十日も。 課長からすれば、それに値する働きだったのだろう。 だが、よくよく考えてみると、霧の森から命懸けで任務をこなして帰った報酬が、休み十日分ってどうなんだ? 冒険者なら金貨の山を抱えて帰ってる案件だぞ、これ。 傭兵なら一週間は酒と女で豪遊だ。 俺? 布団と枕が豪遊先ってわけだ。 なので俺は決めた。 休日初日。 俺は旅に出ることにした。 別に本気で各地を回る気じゃない。 ただの帰省だ。 課長に許可をもらい、十日で帰る予定。 仲間に挨拶を済ませて、いざ実家へ。 南門をくぐり、街道を進む。 夏の匂いが濃くなってきて、草木は青々と茂り、道端には小さな花が揺れていた。 ……前に帰ったのは三年前か。 母ちゃん、ちゃんと飯食ってんのかな。 それだけが心配だ。 俺がいなくなった途端、味付けなしの素材をワイルドにむさぼってる生活に戻ってなきゃいいが……。 ……ネギとしめじは庭で採れるだろ。あとは……。 ああ、母ちゃんがまともに食う食事ってな、なぜか蒸し鶏なんだよ。 初めて作った時にな、妙に気に入ったらしくて、そればっか食うんだ。 ……味覚が変わってなきゃいいけどな。 服も……洗濯してるよな? またカビだらけになってたら、俺、発狂する自信があるぞ。
馬を預けて通りを進む。 あちこちで片付けや消火が続いていて、街全体が疲れ切ってるのがわかる。 けれど、不思議とみんなの顔は晴れやかだった。 ギルドの前で、笑顔満点のカエデとテッタが大きく手を振っているのが見えた。 元気そうでなによりだ。 酒場の前では、渋い二人。 ジョナスとゼットが俺の顔を見て頷いた。 ……二人ともサンキュー。助かったよ。 食堂の前で立ち話していたタマ婆さんとハクユウがこちらに気づくと、よくやったとばかりに静かに頷いた。 その様子に、俺も手を上げて応じる。 ……こっちも、随分助けられたしな。「アルさん、おかえりなさい」 「アル兄、おかえり。今、朝飯作ってくるからな。中で待ってろ!」 「おう、ただいまだな」 ありがてぇ、ありがてぇ……。「課長が、アルさんが戻ったら……報告書、書かせておけって」 「……はいはい。やりますよ」 ◇ ◆ ◇ テッタの用意してくれた朝食を片手に、報告書を書き殴る。「アルさん、結局コレル神父ってどこに行ったんですかね?」 カエデが首を傾げながら、聞いてきた。 ……ああ、そうか。 森でコンニチハしたの、こいつらは知らないんだったな。「コレル神父か。あいつな、俺を追ってきて『鍵返せ~』って騒いでたんだが……魔物に連れてかれちまったよ」 柔らか~く、カエデにはそう伝えた。 カエデは「うわぁ……」と引いた顔をしていたが、まぁ事実をそのまま伝えたら卒倒しかねない。 これくらいで正解だろう。「カエデ、受付はいいのか?」 「う~ん、たぶん二、三日は皆さん来
俺は自宅の庭で頭のおかしい聖職者から、これまた有難くもないイカレた説教を聞かされ、うんざりしながら庭を後にした。 森を抜ければ、外はすっかり夜明け前の景色だった。 冷たい空気が肺にしみて、やけに生きてる実感がある。 ……徹夜で死闘のあとに実感なんざ、いらねぇんだけどな。 儀式の余波も気になるところだが――「守りは任せろ」とか言ってたんだから、任せてもバチは当たらないだろう。 それでも、やっぱり気になってしまうのが俺の悪いところだ。 そうぼやきつつ、馬を繋いである場所へと足を向けた。「おっ! ちゃんと待ってるじゃねぇか」 この馬は賢い。 それはもう、ナックよりは賢いんじゃないかと思うくらいには賢い。 たてがみを軽く撫でてから、その背に跨る。「んじゃ、帰るか」 朝日を横目に、ペテルを目指して馬を飛ばす。 街の輪郭がぼんやりと見え始めた頃――異変に気づいた。 城門前に、やけにでかい影がいる。 ……おかしいな。 残業で徹夜して、出張に行って帰ってきたら、後処理が待ってました――そんな気分だ。 ◇ ◆ ◇ 城門前のデカい影。 近くまで来るとよくわかる。 鈍重そうに動くその巨体は、朝焼けの光に照らされてもなお異様だった。 皮膚はまだらに裂け、肉塊のように膨れあがり、まるで人間の手足や胴体を無理やり繋ぎ合わせたかのような……。 吐き気が込み上げる。 見間違いようがない。 おそらく、儀式の余波で生まれた化け物――フレッシュゴーレム。 吐き気をこらえながら、俺は身体強化した目で遠巻きに観察する。 城門は固く閉ざされたまま。 門の前での戦
俺は素早く印を結ぶ。 指先が震える暇もなく、覚えた形を次々と組み合わせていく。 霧の森の湿った空気が、掌の熱に反応してざわつくのがわかった。 霧の魔女の神話めいた言葉。 「掛けまくも畏き、常闇の淵に坐す荒御魂の神よ……」 言葉が霧に溶けていき、木々の間を這うように広がる。「千代に潜みて人の嘆きを糧とし、万代に囁きて血を欲したもう御身。 祓へ給へ、清め給へ――されど、その祓いは命を贄とし、 その清めは魂を削りて成すものなり」 紡ぐ言葉が終わるたびに、地面の震えが少しずつ大きくなっていくのがわかる。 霧が震え、葉がさざめき、遠くで怯えた獣が一声上げた。「ここに我が血を以て枷を解き、我が声を以て門を叩く。 枉れる鎖を断ち、虚無の扉を穿ち給へ」 神父の顔に、初めて——本物の驚きが走るのが見えた。 彼の口元がぴくりと動き、何かを否定するかのように手を上げる。 だが、いまさら言葉を重ねても遅い。 俺がここで出した符印と声は、もう後戻りできないところまで魔を呼んでいる。 ……ほら、祈れよ。お前の信じる神ってやつに。 「闇より這い出で、災厄を連れ、我が呼び声に応え給へ――」 やがて霧が濃密になり、視界が滲む。 光が吸われていくかのように、周囲の色が抜け落ちていく。 音が止み、静寂が辺りを包む。 それは、何かが来る合図。 霧の中心から黒い穴のような影がひとつ、ゆっくりと姿を現した。 形容し難い生物の輪郭が、吸い込むように周囲の霧を引き寄せる。 轟きながら、刃にも牙にも似た無数の口が重なり合う。 まるで、生きた深淵が這い出してくるようだ。 「来い、食らう者よ――」 俺の声
「随分と手の込んだ仕掛けだったな?」 「ええ。何年も前から準備していた――大事な儀式だったのですよ」 大事な儀式、ね。 鼻で笑いたくなる言い草だ。「一体、何を呼ぼうとしたんだ?」 「そこまで知っているのですね」 「ああ、うちにも優秀な奴がいてね」 ゼットの顔が脳裏をよぎる。 やっぱり、あの推測は当たってたか。「セイラム聖王国が神と呼ぶ存在……本当に神だと、あなたは思っているのですか?」 ……なんだ? いきなり説教か?「さぁな。神様なんて、そこら中にいるんじゃねぇか」 「……素晴らしい考え方ですね」 あ、肯定されちまったよ。 こっちとしては軽口のつもりだったんだが。「別に神は唯一神のみではない。他にも多く存在するのです」 「へぇ~、それで?」「それを信仰することを、聖王国は許さない……これは間違っていると思いませんか?」 「まぁ、言わんとすることはわかるぜ」 神父の言葉は妙に滑らかで、耳に入ると理屈が通っているようにも思える。 ……だからこそ、厄介なんだよな。「それなのに、他の信仰を異端と断罪し、裁くのです」 「まぁ、そうだな。よく聞く話だ」 「でしょう? だから、正すのです。我々の手で」 ……ふーん。 つまり、どんな犠牲も厭わないって話か。 考えるだけで、自分でも寒い気分になる。「なら、それで巻き込まれた罪のない人々はどうするんだ?」 問いに、神父は少しも躊躇せずに答えた。「必要な犠牲です」 その言葉は、まるで最も当然の理屈のように霧の空気に溶け込んだ。 俺は目の前の人物が
南へ歩くことしばし、見えてきたのは小さな集落。 家が十軒そこら、寄り添うように建っている。 煙突からは白い煙がのぼり、子供たちが追いかけっこをしている。 平和に見えるが、依頼書の被害報告はここのことだ。「お~い、ギルドの人かい?」 声をかけてきたのは、腰の曲がった農夫。 顔色は冴えない。 俺が頷くと、村人が集まってきて口々に説明を始めた。「最初は豚だ。一昨日の晩にやられた」 「うちじゃ翌日に山羊がやられてな」 なんとかしてくれ。 今にも、そんな言葉が出てきそうだ。 それを調査しに、来ただけなんだが……。 そう思って、辺りを見渡す。 ……死骸がないな。やっ
翌朝。 はい、今日も元気にお勤めです……いや、元気なのは街の方で、俺じゃないけどな。 ……また、ひどい顔だ。 鏡の中で、眠れぬ夜を引きずった目がこちらを睨み返していた。 黒い髪も乱れ放題。 どう見ても「仕事ができる人間」には見えないね。 支度を済ませて宿舎を出ると、すでに通りは人でごった返していた。 パン屋の小僧が火魔法で窯に火をつけ、大工は風魔法で木屑をぶっ飛ばしている。 向かいの主婦は水魔法で桶に水を張りながら、隣と世間話。 戦場じゃ殺し合いに使われる力も、ここじゃ炊事洗濯の延長。 便利だよなぁ。 俺の世界にも欲しかったよ。 で、石畳を抜けてギルドへ。 朝っぱ
「おらぁ、もういっちょ!」「グギィィィ」 逃げ惑う魔物を、後ろから容赦なく切り捨てる。 情けなんてかけている場合じゃない。「お前、逃げんなっ」 全力で投げた石ころが、ガツンッ! とゴブリンの側頭部を打ち抜く。「ギャッ!」「はぁ、キリがねぇ」 一体、何匹いるんだか。 反対側は、ナックが踏ん張ってるからいいとして……。 え? 何やってるかって? どっかの馬鹿な冒険者のせいで、絶賛、山の中をゴブリンと大運動会中だ。 定時は過ぎてんだけどな。 このまま帰ったら、ゴブリンじゃなくて、俺の首が飛びかねない。 だったら、やるしかないだろ?「こなクソォ~!」 ヤケクソ気味に森
胃がきゅっと縮む音が、自分で聞こえた気がした。 先頭の一匹が鼻を鳴らした瞬間、地面が揺れた。 ドドドッと一直線、丸太みたいな胴体が突っ込んでくる。「っとと!」 ほいっと身をひねって避ける。 掠める風圧で背中が熱くなる。 柵どころか、家一軒くらい簡単に持っていきそうな勢いだな、これ。 振り返る間もなく、二匹目が蹄を掻き鳴らす。 完全に突進モード。 ……匂いじゃねぇ。こいつら、こっちを見て狙ってやがる。「夜行性じゃなかったのかよっ!」 昼間からギラついた目で狙ってくるワイルドボアなんざ、教本に載せたら赤点食らうレベルのイレギュラーだ。 二匹目の突進も、ギリギリで